出産時の話
私には、二人の娘がいます。
これは、二人目の出産時の話です。
次女がお腹にいる時でした。
良くないことが2つも重なってしまいました。
一つ目は、
全前置胎盤になってしまったことです。
全前置胎盤とは、
胎盤が子宮口をすっかりふさいでしまっている状態を指します。
つまり、
このままでは自然分娩で産むことはできないという事です。
帝王切開を選ぶしかない、という事です。
二つ目は、
私の子宮が、長女の出産時の帝王切開の傷と癒着していることが分かったのです。
(一人目の子どもの頭囲が子宮口よりも大きかったので、
子宮口から出てこれないと言われ、帝王切開にしました。)
帝王切開を行えば、当然出血します。
機能している状態の子宮は血液を大量に含んでいます。
帝王切開でメスを入れた時に大量の出血があると予測され、母体の命に危険がありました。
止血の望みがない場合は、
子宮自体を全摘出することになります。
それでも出血は多量になってしまいます。
私は、
子宮を温存するにせよ全摘出するにせよ、
命を落とすかもしれない状況にありました。
長女への手紙
出産時までも、流産の危険があったので、長い間入院生活が続きました。
幼い長女と離れ離れに生活していたのです。
そして、ここに来て事態は変わり、
もしかしたら私は死んでしまうかもしれない、
長女と永遠のお別れをする可能性ができてしまった、
そんな状況になってしまったのです。
長女はその時まだ2歳になったばかりでした。
もっと甘えさせたかった。
側にいて成長する姿を見ていたかった。
何か壁に突き当たったときに、
話を聞くだけでもいいから力になってあげたかった。
私は、
長女が誕生日を迎えるたびに読めるよう、手紙を書くことにしたのです。
何通書いたでしょう。
書きながら娘の顔を思い浮かべて泣きました。
病室は相部屋だったので、
声を殺して泣きました。
本当はこんな手紙書きたくない。
渡したくない。
こんな手紙が必要のない状態になりたい。
手紙は、娘が小学生になってから中学生になるころまでの数年間分書きました。
書くうちに、ふと考えて書くのを辞めました。
本当にそうなってしまいそうで、
怖くなったのです。
運命を受け入れる
私は、この状況をこの様に考えました。
出産時の問題で、
命を落とす人もいる。
それが自分だという事だってありうる。
何でもなく普通にありうることなのだ。
たまたまそれが、自分だったという話。
受け入れるしかない。
そう思ったのです。
辛かったです。
悲しかったです。
苦しかったです。
退院して、
新しい命とともに家族みんなでやっと暮らせるはずだったのに、と。
そして、
大きな不安が襲ってきました。
自分がこの世からいなくなること。
受け入れるしかないのだ。
そう言い聞かせました。
どんな結果であろうと、受け入れるしかないのだ。
担当医の先生も、手術のためにいろいろと準備をしてくださっている
という事を、看護師の方から聞きました。
看護師の皆さんも、
体の自由が利かない私を献身的にお世話してくださいました。
洗髪もしてくださいました。
24時間の点滴が必要だったので、数日に一回針を交換する作業も丁寧にしてくださいました。
お風呂に入る時には、点滴の器具が濡れないように保護してくださいました。
お風呂に入れない時には、足湯をしてくださり、足のツボを押してくださいました。
どれもありがたくてありがたくて、感謝してもしきれません。
出産の日
手術の朝を迎えました。
看護師さんは手術室に行く私に、
はっきりと大きな声で、
「○○(私の姓)さん!負けてダメだからね!」
と励ましてくださいました。
私は、うれしくて涙が出てきてしまいました。
「はい!負けません!頑張っていってきます!」
ストレッチャーに乗せられ、覚悟を決めて手術室に連れられました。
6時間後、
私は次女を生みました。
次女は新生児仮死で生まれたので、NICU(新生児集中治療室)に連れていかれました。
私も、無事に生きて処置室に帰ってきました。
7リットル以上もの破水と出血がありましたが、
担当医の先生、麻酔科の先生、手術担当の看護師さん方のおかげで
私は生きることができました。
3週間の入院の後、
無事退院することができました。
本当にありがとうございました。
長女に書いた手紙は、嬉しいことに無駄になりました。
長女は、この手紙を今でも大事に仕舞ってくれています。
生かされている
この運命は誰のせいでもない。
自分が自分で背負うしかないのだ。
手術を前にした時のこの覚悟を、
きっと神様が受け取ってくださったのだと思います。
神様が、
お医者さまや看護師さんの姿をして私のもとに来てくださったのです。
神様のおかげで、
今こうして生きることができています。
本当に感謝しています。
頂いた命。
幸せに生きようと思います。
そして、
世の中を明るくするために使っていきたいと思います。